「自由に使っていい」では広がらない|DX推進担当者が実践するAI浸透の3STEP

「自由に使っていい」では広がらない|DX推進担当者が実践するAI浸透の3STEP

「自由に使っていいよ、と言っても、結局誰も使わない——」

AIを社内に広げようとする推進担当者が、必ずぶつかる壁です。ツールは導入した。社内には案内した。それでも、業務でAIを使いこなしているのは、結局いつもの数人だけ。

この壁の正体は、社員のやる気でも、ITリテラシーでもありません。

「使い道を見出せない人」をどう動かすか——その設計が抜けているからです。

この記事でわかること

製造業のDX推進担当者S氏が実践している、AIを社内に浸透させるための「入り口設計」を紹介。

  • 「業務でガンガン使える人」と「使い道を見出せない人」がいる現実
  • わかりやすく使いやすい入り口として、メール作成と議事録から渡す理由
  • 1個ハマったところから横に広げる、浸透の進め方

こんな経験はありませんか?

  • ツールを導入したのに、使っているのはいつも同じメンバーだけ
  • 勉強会を開いても、その場では納得されるが、職場では使われない
  • 「便利だと聞くけど、何に使えばいいかわからない」と言われる

AIの浸透が止まる理由は、ツールの問題ではなく、「使い道を見出せない人」を動かす導線が設計されていないことにあります。

この記事では、製造業のDX推進担当者S氏が実践している、「面白い使い方」「便利な使い方」を入り口にする浸透の進め方を紹介します。

Before / After

S氏が在籍する会社では、Stella AI for Biz導入後も、活用が一部のメンバーに偏る状態が続いていました。「業務でガンガン使える人」と「使い道を見出せない人」の二極化です。

Before(従来のアプローチ)

ツールを導入し、全社員向けに案内 →「自由に使っていい」と伝えるが、使い道を自分で見つけられる人だけが使う →「使い道を見出せない人」は、いつまでも入り口に立てない

業務直結のユースケースを示しても、すべての社員に響くわけではありませんでした。

After(入り口を設計したアプローチ)

「業務でガンガン使える人」と「使い道を見出せない人」を区別して捉える →後者には、わかりやすく使いやすい入り口(Outlookアドイン・議事録)から渡す →1個ハマったところから、横に繋げて広げていく

「全社員に同じ案内をする」のではなく、入り口を分けて設計することで、浸透の進み方が変わりました。

実践STEP:浸透の入り口を設計する3ステップ

S氏が実践しているのは、3つのSTEPです。順番が大事で、いきなりSTEP2から始めると、結局「業務でガンガン使える人」だけが反応する状態に戻ってしまいます。

STEP1|「使い道を見出せない人」がいることを認識する

最初のSTEPは、社員を一括りにしないことです。

S氏はこう語ります。

業務でガンガン使える人はいいと思うんですけど、なかなかそういうのを見出せない人は、何か1個面白い使い方で使ってくれればいいと思っている。入りはそこからで、そのあと広げてもらえたら一番浸透しやすい。

つまり、社内には大きく2タイプいる前提で設計を組みます。

  • 業務でガンガン使える人:自分で使い道を見つけて、勝手に活用が進む
  • 使い道を見出せない人:「便利だと聞くけど、自分には関係ない」で止まる

ここがポイント

浸透が進まない多くのケースは、後者の存在を前提にしていないことが原因です。「業務に役立つから使ってね」というメッセージは、後者には届きません。なぜなら、後者は自分の業務とAIを結びつける発想自体を持っていないからです。

ここで必要なのは「単なるユースケース」ではなく、「入り口になる体験」です。

STEP2|わかりやすく使いやすい入り口を渡す

「使い道を見出せない人」に最初に渡すべきは、操作がシンプルで、効果を体感しやすいものです。

S氏が社内で広げている入り口は、主に2つあります。

Outlookアドインで返信メールを作成|「ワンクリック」で文章が出てくる安心感

Microsoft 365を導入する会社では、Outlookのアドインが使えるようになります。メールを開いて「感謝を伝える」などのボタンを選ぶと、文章が自動で生成される。プロンプトを書く必要がなく、選択肢を選ぶだけで完結する設計です。

そのまま使えるケースもあれば、多少の修正で送れるケースもあります。「プロンプトって何?」という人でも、ボタン操作だけで生成AIを使えます。

議事録|1から書く苦労を知っている人ほど刺さる

リモート会議の音声を入れると、議事録のフォーマットで出力される機能です。S氏自身、過去の議事録作成にこんな苦労をしていました。

議事録の構成に時間がかかる。3時間もかかったり、確認時には全然違う内容に直されたりする。内容を忘れてしまい、結局なんだっけ、と人に聞きながら作っていた。

この苦労を知っている人にとって、議事録の自動生成は「驚き」と「助かる」が両立する体験になります。

S氏の社内でも、議事録機能を実際に利用したメンバーから驚きの声・助かっているという声が上がっています。

ここがポイント

入り口として渡すものは、「使う前の準備が少ない」「社員が手間だと感じている」「成果が見える時間が短い」ことが重要です。プロンプトの書き方を覚える必要があり、効果を実感するまで時間がかかるものは、入り口には向きません。

STEP3|1個ハマったところから、横に繋げて広げる

入り口を渡して、「これは便利」「使えるかも」と思ってもらえたら、次のSTEPです。

S氏は、ハマったところを起点に、横に繋げる動きを意識しています。

たとえば、議事録機能を気に入ったメンバーがいれば、その人に「会議の要約もできるよ」「議事録から決定事項だけ抜き出せるよ」と次の使い方を提案する。Outlookアドインで便利さを感じた人には、「同じように文章を整える使い方が、レポートにも使えるよ」と広げていく。

1個の体験を起点に、関連する使い方を横に繋げていく。これがS氏の言う「横で繋げる発想」です。

ここがポイント

最初から「AIにはこんな使い方が10個ある」と全部見せても、「使い道を見出せない人」には響きません。1個ハマったところを起点に、その人の業務に繋がる使い方を1つずつ追加するほうが、定着のスピードが上がります。

DX推進担当の役割は、S氏の言葉を借りれば「活用できる機会と場をどんどん作っていく」ことです。

得られた成果

3つのSTEPを意識することで、S氏の社内では浸透の質が変わりました。

議事録機能には、他メンバーから驚きの声・助かっているという声が上がっている。1個ハマった人が、自分の業務に応用していく動きが出てきた。

数値的な指標だけでは測れない成果として、「使い道を見出せない人」が入り口に立てるようになったことが大きな前進です。

クニヒロ株式会社 S氏の声

S氏は、AI浸透のスタンスをこう語ります。

「業務でガンガン使える人はいいんですけど、なかなかそこまで見出せない人には、まず1個、面白い使い方から入ってもらえたらいいなと思ってます。そこから広げてもらえると、浸透しやすいんじゃないかなって。それを軸にうまく繋げてもらえるのが理想で、私としてはその機会と場をどんどん作っていくのが、今後の課題かなと思ってます。」

入り口は、必ずしも業務直結である必要はありません。

「私としては、面白いと思ってもらえれば、そこから業務に広がっていく可能性が出てくると思ってます。一方的に「便利だよ」と言うんじゃなくて、相手が自分で「これ便利だ」と気づける入り口を、どれだけ作れるかだと思ってます。」

応用・発展ヒント

この「入り口を分けて設計する」アプローチは、AI浸透以外の場面にも応用できます。

① 新ツール導入時の段階的展開

新しいツールを導入する際、全社員向けに同じ案内をするのではなく、「自分で使い道を見つけられる人」と「そうでない人」を区別して展開します。前者は放置でも勝手に使い始めますが、後者には別途、シンプルな入り口を用意する。これだけで定着率が変わります。

② リテラシー教育と利用啓発の両立

入り口を渡すだけでなく、便利な側面と注意すべき側面の両方を伝えることも重要です。S氏も画像生成の活用を広げる際、著作権・肖像権の注意喚起を併せて行っています。「使い方次第」という前提を共有することで、安心して使える環境を作れます。

③ 浸透担当が「機会と場をつくる」役割を担う

DX推進担当の役割は、ツールを導入することではなく、社員が試してみる機会と場を継続的に作ることです。勉強会、社内事例の共有、相談しやすい雰囲気——これらの積み重ねが、長期的な浸透を支えます。

まとめ

AIの社内浸透が止まる本当の理由は、ツールの問題でも、社員のやる気の問題でもありません。「使い道を見出せない人」を動かす導線が設計されていないことにあります。

「業務でガンガン使える人」と「使い道を見出せない人」を区別して捉え、後者にはわかりやすく使いやすい入り口(メール作成・議事録)から渡す。1個ハマったところから、横に繋げて広げていく——入り口を設計することで、浸透の進み方が変わります

「社内で活用が広がらない」と感じている方は、まずは問いを立ててみてください。「自分は今、まずは使ってみて、と案内していないか?」——この問いを起点に、入り口の設計が始まります。


この記事で紹介した仕組みは、Stella AI for Bizを活用して実現しています。