前編で「プロンプトの前に問いを設計する」と整理しました。後編では、具体的な業務場面で「問いの設計→プロンプト」の流れを実践します。
この記事でわかること
- データ分析・企画書・顧客対応の3場面で問いからプロンプトに落とす流れ
- AIの迎合を防ぐ指示の出し方
- 「AIの出力を検証する問い」の立て方
前編では、プロンプトと問いは別のものだと整理しました。ゴール・問い・用途の3つを決めてからプロンプトを書く。この順番が大事。
後編では、実際の業務場面でこの流れをやってみます。
場面①:データ分析——四半期レビューの準備
ゴール: 来週の経営会議で、営業リソースの配分方針を提案する。
問いの設計:
「今四半期の売上ギャップの主因はどこにあるか」(見渡す)。
「新規の減少が主因だとして、リードの質か商談化率か」(深さ)。
「この傾向は今四半期だけか、3四半期以上の構造的な変化か」(時間軸)。
問いが3つ出ました。1つ目の問いの答えが出てから、2つ目に進む。Vol.4-5の「見渡して、絞る」の実践です。
プロンプト(1つ目の問い):
「売上が目標に対して15%未達です。添付データから、新規商談数・既存の解約率・平均単価のそれぞれの寄与度を算出してください。迎合せず、データだけを冷静に見て判断してください。仮説を否定する材料があれば遠慮なく指摘してください」
このプロンプトには、「バイアスを消す指示」が入っています。「迎合せず」「否定する材料があれば指摘して」。検証の場面では、この一文があるかないかで出力の質が変わります。
プロンプトの役割は、AIの出力を「今回の仕事に合う形へ狭める」ことです。何も指定しなければAIは一般的で無難な方向に寄る。そこに焦点・深さ・形式・優先順位を指定して狭める。このプロンプトでは、問いの設計で「狭める方向」を決め、目的・前提・指示・条件・形式の5要素で「渡す情報」を整え、バイアスを消す指示で「狭め方の質」を上げています。この3層が揃って初めて、AIが判断に使える出力を返します。
AIの出力が返ってきたら:
結果を鼵呑みにしない。「この数字は合っているか」「別の切り口で見たら違う結果にならないか」を自分で確認する。Vol.15の「AIの出力はたたき台」です。確認できたら、2つ目の問いに進む。
場面②:企画書作成——新規事業の提案
ゴール: 新規事業のアイデアを3つに絞って、来月の役員会に提案する。
問いの設計:
「自社の強みを活かせる市場はどこか」(主語=自社の視点)。
「その市場で、既存の競合が満たせていない顧客ニーズは何か」(主語=顧客の視点)。
ここではVol.9の「主語を変える」を使っています。自社視点だけで考えると「自分たちがやりたいこと」に偏る。顧客視点を入れると「市場が求めていること」が見える。
プロンプト:
「弊社はBtoB SaaS企業で、顧客管理とデータ分析に強みがあります。この強みを活かして参入できる隣接市場を5つ提案してください。各市場について、既存の競合が満たせていない顧客ニーズを1つずつ挙げてください。根拠も示してください」
このプロンプトには、前編で整理した「ゴール・問い・用途」の3つが入っています。同時に、AI定着ラボVol.6「「なんか違う」が続くのは、渡している情報のせいだ」で整理した「目的・前提・指示・条件・形式」の5要素も揃っています。「何を渡すか」と「何を聞くか」は補完関係です。渡す情報が整っていても、そもそも聞くこと自体がずれていたら意味がない。問いの設計が先で、渡す情報の整理が後です。
注意点: 企画の場面では、AIの出力をそのまま企画書にしない。AIが出した5つの市場候補は「切り口の幅出し」であって、そこから自社の現場感覚で3つに絞り、深掘りするのは人間の仕事です。Vol.16の顧客ヒアリングと同じで、AIからも「事実」を引き出し、「判断」は人間がする。
場面③:顧客対応——クレーム対応の方針決め
ゴール: 大口顧客からのクレームに対して、今週中に対応方針を決める。
問いの設計:
「クレームの本質は何か。表面的な不満の裏にある構造的な課題は何か」(深さ)。
「この顧客が本当に求めているのは何か」(主語=顧客の視点)。
「同様のクレームが他の顧客からも出る可能性はあるか」(角度を変える)。
Vol.16で「顧客の本音は直接聞いても出てこない」と整理しました。クレーム対応でも同じです。クレームの文面そのものではなく、その裏にある本当の課題を見つける問いが必要です。
プロンプト:
「大口顧客から以下のクレームが来ています。(クレーム本文を添付)。このクレームの表面的な不満と、その裏にある可能性がある構造的な課題を分けて分析してください。また、同様の不満を抱えている可能性がある他の顧客セグメントがあれば指摘してください」
ポイント: 「表面的な不満」と「構造的な課題」を分けて聞く。AIにこの区別を明示すると、「○○に不満を持っています」で終わらず、その裏にある仕組みの問題まで掘ってくれます。
3つの場面に共通するパターン

振り返ると、3つの場面すべてで同じことをしています。
① 問いを設計してからプロンプトを書いている。 プロンプトから書き始めていない。
② 第2部の操作技法を使っている。 見渡す・絞る・深さ・主語・時間軸・角度。AIに聞く前に、この道具で問いを研ぎ澄ましている。
③ AIの出力を「答え」ではなく「材料」として扱っている。 データ分析の結果は検証する。企画の候補は自分で選別する。クレーム分析は現場の情報と突き合わせる。
AIの出力が返ってきた後も「問い」で検証する
AIが出力を返してきました。ここで「なるほど」で終わらない。出力に対して問いを立てる。
「この分析結果は、別のデータで見ても同じ結論になるか」。
「AIが見落としている視点はないか」。
「この結論に反する事実はないか」。
AIに検証を頼むときは、「この結論に対する反論はありますか? 見落としている可能性がある別の要因を挙げてください」と明示的に聞く。AIに「否定してもいい」と許可を出す。
AIの出力を受け取ったあとの「検証の問い」まで含めて、問いの設計です。
まとめ
この記事のポイントを3つにまとめます。
- どんな業務場面でも「ゴール→問い→プロンプト」の順番は同じ。データ分析、企画書、顧客対応。場面が違っても流れは変わらない
- 問いの設計には第2部の操作技法がそのまま使える。「何を渡すか」(AI定着ラボVol.6)と「何を聞くか」(問いの設計)は補完関係。両方が揃って初めてAIが力を発揮する
- AIの出力が返ってきた後も「検証の問い」を立てる。「別の角度で見ても同じか」「反する事実はないか」。出力を受け取ったあとの問いまで含めて、問いの設計
次回は「前提を疑う問い」を扱います。ここまで学んできた操作技法は、目の前の問題を効率よく解くための道具でした。でも、そもそもその問題設定自体が間違っていたら? 前提を疑う問いが、停滞を壊します。


