Go条件と撤退条件を「始める前に」決める。それだけで判断の質と速度の両方が上がります。
この記事でわかること
- Go条件と撤退条件の作り方(指標×期限)
- 良い条件の3つの特徴(測定可能・合意済み・変更ルールあり)
- AI導入PoCでの具体的な適用例
「とりあえずやってみよう」
この言葉自体は悪くありません。スピード重視の判断は、特にスタートアップや新規事業では重要です。問題は、「どうなったら続けるのか」「どうなったらやめるのか」を決めずに始めてしまうことです。
第16回でサンクコストの罠を扱いました。「ここまでやったのだから」で撤退できなくなる罠です。この罠にはまる根本原因の1つが、始める前に撤退条件を決めていないことです。
今回は「条件付き意思決定」の技術を整理します。Go条件と撤退条件を「先に」決める。これだけで、判断の質と速度の両方が上がります。
Go条件と撤退条件とは
Go条件とは、「この指標を超えたら本格展開する」という基準。撤退条件とは、「この指標を下回ったら撤退する」という基準です。
どちらも、始める前に決めます。始めた後に決めると、感情が入ります。「もう少しやれば」「せっかくだから」。これがサンクコストの罠です。
たとえば、新しいAIツールの導入を検討するとき。「3か月のPoCで、対象部署の利用率が60%を超えたらGo。30%未満なら撤退。30〜60%なら条件を変えて延長」。この3パターンを先に決めておく。判断の場面で迷わなくなります。
条件の作り方 —— 指標と期限のセット
条件は「指標」と「期限」のセットで作ります。どちらか一方だけでは条件になりません。
「利用率が60%を超えたら」は指標だけ。 いつまでに60%なのかが不明なため、「もう少し待てば超えるかも」が永遠に続きます。
「3か月後に」は期限だけ。 何をもって成功・失敗とするかが不明なため、主観的な判断になります。
「3か月後に利用率60%以上」。指標と期限が揃って初めて、客観的に判断できる条件になります。
良い条件の3つの特徴
測定可能であること。「うまくいっている感じがする」は条件ではない。数字で測れるものにする。
合意されていること。条件を決めた人と、判断する人が同じとは限りません。チームやステークホルダーと事前に合意しておく。
変更ルールがあること。条件は変えてもいい。ただし、「変える場合は事前に理由を明示する」というルールを設ける。なし崩し的に条件を緩めるのを防ぎます。

AI導入プロジェクトでの具体例
RAGを導入するケースで考えてみます。
Go条件。2か月のPoCで、回答精度が80%以上、かつ対象ユーザーの週次利用率が50%以上なら本格導入へ。
撤退条件。2か月後に回答精度60%未満、または利用率20%未満なら、アプローチ自体を見直す。
条件変更ルール。PoCの途中で大きな仕様変更が入った場合は、期限を1か月延長できる。ただし延長は1回まで。
この3つを、プロジェクト開始時にチームで合意しておく。途中で「やっぱりもう少し」と言いたくなったとき、「事前に決めた条件はどうだったか」に立ち返れます。
AIに「このPoCの撤退条件として妥当な指標を3つ提案して」と聞くのも有効です。自分たちだけだと甘い基準を設定しがちですが、AIは感情抜きで客観的な基準を提示してくれます。
「決め方を先に決める」という考え方
条件付き意思決定の本質は、「何を決めるか」の前に「どう決めるか」を決めることです。
判断基準が曖昧なまま始めると、判断の場面で毎回ゼロから考えることになります。判断基準を先に決めておけば、判断の場面では「基準を満たしたかどうか」を確認するだけ。判断のスピードと質の両方が上がります。
まとめ
この記事のポイントを3つにまとめます。
- Go条件・撤退条件は「指標+期限」のセットで作る。どちらか片方だけでは条件にならない
- 始める前に決めておくことで、感情(サンクコスト)に引きずられずに判断できる
- 「決め方を先に決める」が、条件付き意思決定の本質
次回は「リスクとリターンの考え方を整理する」をやります。
「リスクがあるからやめよう」で終わらせない。リスクの大きさ、発生確率、対処可能性を整理する方法を扱います。


