ハルシネーションとは、生成AIが「もっともらしさを優先して埋めにいくことで起きるズレ」です。
この記事で分かること
- ハルシネーションが「バグ」ではなく「仕組み上自然なこと」である理由
- 「自然さ」と「正しさ」が別物であることの重要性
- 情報不足のときほどズレやすい理由と、実務での向き合い方
生成AIを使っていて、いちばん不思議なのはここかもしれません。
自然な文章を返してくる。前後の流れも読めているように見える。言い回しも滑らか。それなのに、ときどき内容がズレる。
しかも、そのズレ方がやっかいです。明らかに変なら、まだ気づきやすい。実際によくあるのは、「すごく自然だけれど、少し違う」です。
存在しない資料名をそれっぽく言う。確認していない数字を自然に置く。制度やルールをもっともらしく説明する。引用元があるように見えて、実は正確ではない。
こういう現象が、よくハルシネーションと呼ばれます。
ひとことで言うと、ハルシネーションは生成AIが「もっともらしさを優先して埋めにいくことで起きるズレ」です。
ここを理解しておくと、生成AIを怖がりすぎず、それでいて過信もせずに使えます。
ハルシネーションは「壊れた挙動」ではありません
まず大事なのはここです。
ハルシネーションという言葉を聞くと、何か異常なことが起きているように感じるかもしれません。ですが実際には少し違います。
生成AIにとって、自然な文章を続けようとするのは基本動作です。第1回でも見たように、生成AIは「次にもっともらしいものを出していく仕組み」でした。
分からないところに出会ったときでも、そこで急に黙るのではなく、それまでの流れから自然そうなものを出そうとします。
人間なら、「そこは分かりません」「情報が足りません」と止まることができます。ですが生成AIは初期設定のままだと、そこでも続けようとする。
だからハルシネーションは「バグ」というより、生成AIの基本動作をそのまま進めた結果として起きやすいものです。
会社名のあとに部署名が続きそうなら、それっぽい部署名を置く。書籍名が必要そうなら、それっぽいタイトルを作る。典型的な説明が求められていそうなら、一般的にありそうな説明を返す。これは「嘘をつこう」としているわけではありません。文脈に対して自然な答えを返そうとしすぎた結果です。
「自然さ」と「正しさ」は別物です
生成AIは、自然な文章を作れます。ですが、自然であることと正しいことは違います。
文章の流れは自然、口調も適切、形式もきれい。それでいて中身の一部が事実と違う。これが普通に起きます。
生成AIが強いのは「自然に見える形に整えること」です。一方で「現実世界の事実を保証すること」は別の話です。ここを同じだと思ってしまうと、危ない。生成AIをうまく使う人ほど、この2つを分けて見ています。
さらに言えば、流暢に答えられることと、正確に知っていることも別です。 生成AIは文脈に合わせて自然に答える力がとても強い。だから、分からないことでも流暢に返せてしまう。人間は分からないことを話すとき、どこかで言いよどみます。ですが生成AIは文体が崩れにくい。だからなおさら「分かっていそう」に見える。
つまりハルシネーションの怖さは、内容が間違うことそのものだけではありません。間違っていても、見た目が整いすぎていること。ここにもあります。

情報が足りないときほど、ズレは起きやすい
ここは実務的に大事です。
生成AIがズレやすい場面には、共通点があります。それは、必要な情報が足りないときです。
- 最新情報が必要なのに与えられていない
- 社内ルールや社内文脈が必要なのに持っていない
- 固有名詞や数字の正確性が必要なのに確認材料がない
- 条件が曖昧なまま答えを出そうとしている
こういうとき、生成AIは「情報が足りないので止まります」ではなく「文脈から自然そうなものを作ります」に寄ります。
だから情報不足のときほどハルシネーションは起きやすい。特に数字、日付、固有名詞、法令名、出典、URLは「自然にそれっぽいものを置く」ことが特に危険な領域です。文章全体の流れとしては自然。でも数字が1つ違うだけで意味が変わります。
問いそのものが広すぎたり曖昧だったりしても同じです。「どうすれば売上が上がりますか」のような条件が少なすぎる依頼では、「ありそうな一般論」が返ってきやすい。これも広い意味ではハルシネーションに近いズレです。
ハルシネーションは「前提にして使う」
「ハルシネーションがあるなら危なくて使えないのでは」と思うこともあるかもしれません。ですが、実務ではそこまで極端に考えなくて大丈夫です。
大事なのは、ハルシネーションをゼロにすることより、起きうる前提でどこに使うかを決めることです。

要約、議事録のたたき台、メール文面化、比較の初稿、構成整理、アイデアの幅出し。こういうものは使いやすい。人が最後に見やすいからです。
一方で、最終的な事実確定、数字の確定、法律や制度の断定、対外発表の確定文、出典つきの説明。こういうものは、人が確認する前提で扱う。
つまり問題は「ハルシネーションがあること」そのものではなく、ハルシネーションがありうるのに最終確定までAIに任せてしまうことです。
ここまで来ると、次の仕組みの話ともつながります。生成AIがズレる大きな理由のひとつは、持っていない情報を自然さで埋めようとすることでした。なら、必要な情報をちゃんと渡す。もしくは、必要な情報を取りに行けるようにする。ここで出てくるのが、検索、RAG、外部参照、メモリ、ツール連携のような話です。
ハルシネーションと「単なる間違い」は何が違うのか
| ハルシネーション | 単なる事実誤認 | 情報不足による一般論 | |
|---|---|---|---|
| 原因 | もっともらしさで埋めにいく | 学習データ内の誤った情報 | 固有情報がないため一般的な回答に寄る |
| 見た目 | 自然で流暢。気づきにくい | 自然だが確認すれば分かる | 「それっぽいが当社の事情と違う」 |
| 危険度 | 高い(存在しない資料名等を作る) | 中程度 | 低め(だがそのまま使うとずれる) |
| 対策 | 人による確認+RAGで情報を渡す | 出典確認 | 社内情報をRAG等で渡す |
よくある疑問
ハルシネーションはゼロにできますか?
完全にゼロにはできません。仕組み上、もっともらしさで埋める動きは基本動作の一部です。大事なのはゼロを目指すことより、起きる前提でどこに使うかを決めることです。
どんなときに特に起きやすいですか?
数字・日付・固有名詞・法令名・URLなど、正確性が求められる領域が特に危険です。また、問いが広すぎる・曖昧なときも「ありそうな一般論」に寄りやすくなります。
RAGを入れればハルシネーションはなくなりますか?
RAGは情報不足を減らす仕組みであり、ハルシネーションのリスクを下げます。ただしゼロにはなりません。検索のズレや古い資料の参照など、別の原因でズレることもあります。
まとめ
- ハルシネーションはバグではなく、「もっともらしさで埋めにいく」という基本動作の延長で起きます
- 「自然さ」と「正しさ」は別物で、流暢な出力でも事実確認は必要です
- 情報不足のときほどズレやすいので、RAGや検索で情報を渡すか、「最後は人が確認する」場所を決めます
次回の記事は「プロンプトで何が変わるのか」です。
今回の記事では、生成AIが続きを予測していること、トークン単位で文脈を見ていること、トランスフォーマーで重要な場所を拾っていること、それでも自然さを優先するからズレることがあるのを説明しました。次回は、こちらの指示でどこまで変えられるのかについて掘り下げます。


