「漏れなくダブりなく」は、どこまでやるか——MECEの使い方と限界

「漏れなくダブりなく」は、どこまでやるか——MECEの使い方と限界

MECEとは「漏れなくダブりなく」分けることですが、完璧を目指すと動けなくなります。実務では「だいたいMECE」で十分な場面がほとんどです。

この記事でわかること

  • MECEとは何か。なぜ構造化の精度に関わるのか
  • 完璧なMECEを目指すと何が起きるか
  • 実務でどこまでやるべきかの判断基準

ツリーの回で「分けた結果が重なる」という失敗パターンを紹介しました。「新規顧客」「大手顧客」「Web経由の顧客」は、重なっている。

では、どうすれば重ならないように分けられるのか。この「漏れなくダブりなく」を意識する考え方が、MECEです。

MECEとは何か

MECEは「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」の略です。日本語では「漏れなくダブりなく」と訳されます。

  • Mutually Exclusive(ダブりなく):分けた項目同士が重ならない。AとBに同じものが入らない。
  • Collectively Exhaustive(漏れなく):分けた項目を全部合わせると、元の全体に戻る。抜けがない。

たとえば「顧客」を分けるとき。「新規」と「既存」で分ければ、すべての顧客はどちらかに入り、両方に入ることはない。これはMECEです。

「新規」「大手」「Web経由」で分けると、新規で大手でWeb経由の顧客が3つすべてに入る。これはMECEではありません。

なぜMECEが大事なのか

MECEが崩れると、2つの問題が起きます。

ダブりがあると、数字が合わなくなる。 売上を分析するとき、分けた項目が重なっていると、足しても全体と一致しない。「新規の売上が○○万円、大手の売上が○○万円」と言っても、新規で大手の顧客がダブルカウントされている。正確な把握ができません。

漏れがあると、見落としが起きる。 顧客を「大手」と「中小」に分けたけれど、個人事業主を忘れていた。問題解決で原因を分析したけれど、そもそも検討していない領域があった。漏れた部分にこそ、答えがあることも少なくありません。

構造化の精度は、このMECEの度合いで決まります。Vol.3のツリーで「同じ軸で分ける」と言ったのは、ダブりを防ぐためです。Vol.4のマトリクスで「軸を2つ決める」と言ったのも、項目の整理にMECEの考え方が働いています。

完璧なMECEを目指すと、動けなくなる

ここからが大事な話です。MECEは大切ですが、完璧を目指すと逆効果になることがある

「売上が下がった原因」をMECEに分けようとする。「新規/既存」に分けた。でも「新規」の定義は? 今年の新規? 直近3ヶ月の新規? まだ取引がない見込み客は含む? 定義が曖昧だから、完璧にMECEにならない。定義を厳密にしようとすると、延々と議論が続く。

「この分け方だと漏れがあるのでは」「この項目とこの項目は少し重なっているのでは」。こうした議論に時間を使って、肝心の「では何をするか」にたどり着けない。

MECEの精度を上げることに時間を使いすぎて、本来やりたかった分析や判断が進まなくなる。 これがMECEの最大の落とし穴です。

「だいたいMECE」で十分な場面がほとんど

実務では、厳密なMECEが必要な場面と、「だいたいMECE」で十分な場面があります。

厳密にやるべき場面:会計・財務の数字を扱うとき。売上を分解して各部門に配分するとき。ここでダブりや漏れがあると、数字が合わなくなり、経営判断を誤ります。

だいたいで十分な場面:問題の原因を考えるとき。施策のアイデアを整理するとき。会議で論点を整理するとき。こうした場面では、「大きな漏れがないか」「明らかなダブりがないか」を確認できれば十分です。

判断基準は「この分け方で、次のアクションに進めるかどうか」です。 進めるなら、その精度で十分。進めないなら、もう少し精度を上げる。ツリーの回で「アクションが見える粒度で止める」と整理しましたが、MECEも同じです。目的に必要な精度を超えて磨き込む必要はありません。

もうひとつ。分けすぎると、逆に判断に使えなくなります。 顧客を厳密に分けようとして20セグメントに分類できたとしても、20個を同時に見て判断できる人はいません。

実務では5〜7個のグループがちょうど扱えるサイズです。それ以上に細かくなるなら、重要度が低いものは「その他」でまとめてしまって構いません。構造化は思考の整理の道具であって、分類学の研究ではありません。判断に使えるサイズに収まっていることの方が、すべてを網羅していることよりも大事です。

実務で使えるMECEのチェック法

完璧を目指さなくていいとはいえ、最低限のチェックはしたい。実務で使える簡易チェックが2つあります。

チェック①:「この中にどちらにも入るものはないか」(ダブりチェック)

分けた項目を見て、「AにもBにも入る具体例が思いつくか」を考える。思いつくなら、分け方の軸がずれている。ツリーの回で整理した「1つの分岐では同じ軸で分ける」を確認すれば、だいたいのダブりは防げます。

チェック②:「この中に入らないものはないか」(漏れチェック)

分けた項目を見て、「どこにも入らない具体例が思いつくか」を考える。思いつくなら、項目が足りない。「大手と中小に分けたけど、官公庁はどっちだ?」と思ったら、分類を見直すか「その他」を追加する。

この2つのチェックを、分けたあとに1分間やるだけで、致命的なダブりや漏れは防げます。

MECEにこだわりすぎる人への処方箋

構造化を学ぶと、逆にMECEにこだわりすぎて手が止まる人が出てきます。

「この分け方は本当にMECEか」「もっときれいに分けられるのではないか」。こうした完璧主義が、作業を止めてしまう。

処方箋は「まず70%の精度で分けて、使ってみる」です。 使ってみて「この分け方だと議論がかみ合わない」と感じたら、そのときに直せばいい。最初から100%を目指すより、70%で出して改善するほうが速い。

AIに構造化を頼むときも同じです。AIは「きれいにMECEに分けた風」の出力を出しますが、実際にはダブりや漏れがあることも多い。でもそれをたたき台にして、自分の現場の感覚で「ここは重なっている」「ここが抜けている」と修正する方が、ゼロから完璧なMECEを作ろうとするより速い。

まとめ

この記事のポイントを3つにまとめます。

  • MECEとは「漏れなくダブりなく」分けること。ダブりがあると数字が合わず、漏れがあると見落としが起きる
  • 完璧なMECEを目指すと動けなくなる。実務では「次のアクションに進めるかどうか」が精度の判断基準。分けすぎて20項目になるより、5〜7個に収めて「その他」で括る方が判断に使える
  • 簡易チェックは2つ。「どちらにも入るものはないか」(ダブり)と「どこにも入らないものはないか」(漏れ)。分けたあとに1分間確認するだけで十分

次回はこのミニシリーズの最終回です。構造化の4パターンとMECEを学びましたが、構造化はあくまで手段。きれいに整理しても判断を誤ることはあります。「整理したあと、どう使うか」を整理して、シリーズを締めくくります。